


- 前編 正史 -
※重要なお知らせ
本文章の公開をもって、「前編」における正史(史実)が確定します。
本イベントは複数回にわたり開催され、回ごとに異なる公式キャラクターが同乗し、演出内容も変化しますが、正史に位置づけられた人物・出来事については、共通の過去として扱われます。
今後のグリーティングや交流の場において話題に出ることがあり、キャラクターによる投稿や発言の中でも、本件に触れられる場合があります。
一方、正史以外の回に参加した公式キャラクターについては、物語上「記憶に残らないもの」として扱われます。
なお、今後もしばらくは「前編」としての公演を継続予定であり、正史とは異なるキャラクターが同乗する回も実施されますが、お楽しみ要素である事をご理解のうえ、繰り広げられる様々なifストーリーをお楽しみください。
星歴3025年11月20日
「大赤鯨討伐作戦」決行日。
アストラヴェールの港町ポルトゥーラから、アストラヴェール帝国海軍籍の軍艦3隻「ティベラ」「アルヴォラ」そして「アウローラ」が、夜の海へと勇ましく出航しました。
今回の作戦の内容は、ポルトゥーラ沖マルフォッサ島付近に生息するとされる大型ガント種、通称「大赤鯨」を軍艦三隻で討伐するというもの。ティベラ号とアルヴォラ号が主要戦力であり、アウローラ号はあくまで補助的な役割をこなします。
そのため比較的安全とされるアウローラ号には、世界各地から集まった有志の船員たちが多数乗船していました。
騎士として祖国の平和を守らんとする者、高額な報酬に惹かれた者、はたまた興味本位で乗り込んだ者……その面々の中には有名人も数人紛れています。
アストラヴェールの伯爵にして軍人であり、帝国軍からの要請を受けて討伐作戦に参加しているレオナール・ド・ノクティス。
ベルギアのアルカナ学院で教鞭を執る生物学者としての支援と、自身の研究領域である死海の調査を目的として乗り込んだリタ・ルクレール。
大商会であるフラクタルム武装商会の商会長であるメラティオ・フラクタルムは、アストラヴェールの航海術や造船技術を見学するため――と言ってはいますが、軍隊および騎士団によるガント種との戦いぶりが気になっているようです。
それら個性豊かな面々をまとめるのはアウローラ号の船長であるアドニラム・マタナル・サルムハル。帝国海軍の星波長である彼は、自身の所轄地域であるポルトゥーラが作戦の要地となること、また所有船舶であるアウローラ号が比較的積載量に余裕のある船であったことからこの任に就くこととなりました。大変な任務ですが、ボーナスは出ません。
アドニラム船長の部下でありアウローラ号の船員であるレンジ・キドも、三十人を超える志願者たちをまとめるのに一苦労です。
ポルトゥーラの暖かな灯りに別れを告げ、ナミカモメたちの祝福を受けながら、アウローラ号はしばらくの間は穏やかな航海を続けました。
しかしふと気が付くと、アウローラ号は一面の濃霧に包まれていました。ほとんど一瞬での天候の変化に、海での天気に慣れているはずのアドニラム船長も困惑しています。
ティベラ号のマクシム船長、アルヴォラ号のガスケ船長からも無線が入りますが、魔道具へ悪影響を及ぼす『何か』があったのか、声はすぐに途切れてしまいました。
不気味な濃霧の中を行くアウローラ号でしたが、どこからか歌声が聞こえてきます。
首筋を這うようなその声にぞっとする船員たちでしたが、その中でもアドニラム船長は大きな反応を見せました。
「来るな……! 連れて行かないでくれ……!」
悲鳴のような呻きとともにくずおれたアドニラム船長を、レンジが介抱しながら船室へと避難させます。その間、一体誰が船の舵を握るのかというと――
「えっ、僕ですか!?」
舵の前に立たされたのは、先ほどまで船酔いでダウンしていたメラティオでした。ペルベヌアの商人である彼は、操船の経験がいくらかあるといいます。
岩礁を避けながら、不吉な歌声の響く海域を進んでいくアウローラ号。船員たちが口々に、岩の上や海の中に、赤く輝く瞳を見たと声を上げます。
暗闇の中に目を凝らしたリタは「生物学的に見ても、人魚の方々に違いありません!」と人魚たちに手を振ろうとしましたが、レオナールが静かにそれを止めます。
「もはや言葉は通じないだろう。あれはガント種に成り果てている」
人魚の、つまり人族のガント種……絶句する一行をよそに、アウローラ号は巨大な船の残骸の横を通り過ぎます。レンジはそれを「地球の船」と称し、メラティオも「この世界にはない構造です」とそれに同意します。船の残骸には無数のガント人魚たちが棲みついているようで、それらはじっとアウローラ号を見つめているのでした。
耳に届く歌声がひときわ大きくなったその時、アウローラの乗員たちは自分たちがピクリとも動けなくなっていることに気付きます。
暗くなる視界、ひたひたと近づいてくる足音は水気を帯びていて、足音と言うよりは手で這いながら迫ってくるようでした。誰もが背後に忍び寄る半人半魚の怪物を想像したその時、一発の銃声が響きます。
細く煙をあげる銃を手に立っていたのはアドニラム船長でした。銃声に怯んだのか、足音は水音と共に消え、歌声も遠ざかっていきました。
アドニラム船長は、メラティオから返された舵を「もう大丈夫だ」としっかり握るのでした。
さて、霧が晴れたと思ったのも束の間。アウローラ号を襲ったのは激しい風雨でした。
「先ほどの霧に赤い目、それにこの嵐……もしかして私たち、かなり死海の近くにいるのでは?」
リタのつぶやきに、アドニラム船長は「バカな。まだこのあたりはポルトゥーラ近海だぞ」と返します。
その言葉を嘲るように響いたのは、あの不気味な鳴き声――直後、背後にいたはずのティベラ号から通信が入ります。
「こちら『ティベラ』! 何かが船体に衝突した!」
「何か来てる!」「大きい!」船員たちが上げる声に海を見ると、そこにはアウローラ号よりも大きいのではないかというほど巨大な怪物――大赤鯨が、船に並走するように泳いでいたのです。
「あんなにデカいとは聞いてないぞ!」
アドニラム船長の言う通り、ここまでの大きさであるとは報告されていませんでした。銛打ちの機構を持つアルヴォラ号が援護のためにアウローラ号へ並びますが――
「ああっ!?」
誰かが悲鳴を上げました。潜水していた大赤鯨が急浮上して空へと跳ね上がり、同時にアルヴォラ号を下から持ち上げたのです。
海面に叩きつけられたアルヴォラ号はどうすることもできず沈んでいきます。ティベラ号も先ほどの激突の影響で速度が出ないようで、戦える船は本来であれば補給線であったアウローラ号一隻のみとなってしまいました。
アドニラム船長の号令に合わせて船員たちが大砲を撃ちますが、大赤鯨の硬いウロコのせいかまるで効いているようには見えません。
「もとのアカクジラにウロコはないはずなのに……」
「ガント種化により獲得した能力が、あのウロコと大きな体ということだ」
怪訝そうなリタに応じるレオナール。
大赤鯨は船の下にもぐって船体を揺らしたり、横からぶつかってきたり……様々な攻撃を仕掛けてきます。船は幾度も大きく揺れましたが、補給船であるアウローラ号は大きな船体と安定性を持ち、致命傷には至りません。
痺れを切らした大赤鯨は、大きく鎌首をもたげ、甲板へと乗り上げてきました。しかしその隙を逃さず、レオナールの号令で戦闘員たちが白兵戦を仕掛けます。
たまらず海へと戻った大赤鯨でしたが、腹を立てたのか、それともどうしてもヒトを捕食したかったのか――再度甲板に乗り上げてきたのです。
混乱の中、メラティオが叫びます。
「きりがない。レオナール、目を狙えるかい」
「ああ」と頷いたレオナールは、手にしていたハルバードを大赤鯨の右目に深々と突き刺したのです。
大赤鯨は右目からだくだくと血を流しながら、叫び声をあげて海へと戻っていきました。
「やったか!?」
アドニラム船長がそう叫びます。確かに大赤鯨は泳ぐ速度を落とし、アウローラ号の後ろへと引き離されていくようでした。
しかし――メラティオが鋭い声を上げました。「レオナール、後ろだ!」
「道を開けろ!」レオナールは船に備え付けてあった大きな銛を構え、今まさにアウローラの船尾へ食らいつこうとしていた大赤鯨の顔面を大きく殴りつけました。
今度こそ、大赤鯨はその体を海へ沈め、ゆっくりと船から離れていきました。
「マストが折れてもいい。全速力で引き離すぞ!」
アドニラム船長が号令をかけ、レンジがぴんとロープを張ります。アウローラ号は全速力で進み、やがて嵐を抜けました。
ティベラ号の船長、マクシムから通信が入りました。
「ガスケ船長と乗組員たちはこちらで救助したよ! みな無事だ!」
アウローラ号にも死者はいません。全員が無事であったことに、人々は手を取り合って喜ぶのでした。
やがてポルトゥーラの暖かな灯が、水平線の向こうにきらめくのが見えました。
下船の準備をしながら、アドニラム船長は言います。
「危険な目にあわせちまってすまない! 討伐も叶わずだが、手掛かりは掴んだ。……一緒に戦ってくれたのがあんた等でよかったぜ」
船長は周囲を見回し、みなが無事であることを確認して大きくうなずきました。
やがてアウローラ号はポルトゥーラ港へ入港し、はてしなく長くも刹那のように短くも感じられる航海は終わりを告げたのです。
この報せを受けて慌てたのはフォグコースト海洋研究所――通称FIMSの職員たちです。
討伐失敗、軍艦一隻の轟沈。
アストラヴェールの軍事力を世に示す機会であったはずの討伐作戦は大失敗となってしまったのです。
力も誇示できていなければ、危険を取り除けてもいない。
これで終わるわけにはいきません。FIMSの職員たちはアストラヴェール政府と連絡をとるため、帰路を急ぐのでした。
―後編につづく!
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